相続の全体像がわかりやすい本

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『はじめての相続+遺品整理』明石久美 上東丙唆祥 2018年

まえがき

基本的な相続の知識に、葬儀~遺品整理がプラスアルファで書かれている。遺品整理の部分より、相続の全体像がわかりやすかったので記録しておく。

親が亡くなる前にやっておきたいこと

親が亡くなると、やらなければならない手続きが押し寄せてくる。葬儀、納骨、法要、役所への届け出、死亡保険金の請求、遺産相続、遺品整理etc… 残された家族が協力して行うことばかり。良好な関係を保てるよう、事前に家族で話し合って準備しておく方がよい。

【葬儀費用、寺院へのお布施】
遺産から支払う、遺産から差し引ける、というのは誤り。
遺産分割では「親が亡くなった時点の財産」を分けるので、親の遺産から葬儀費用を出すのではなく、相続した子供たちが遺産の中から葬儀費用を出し合う、というのが正しい。
しかも、葬儀費用の負担については相続人全員の合意が必要なので、誰がどれだけ負担するかを決めないまま喪主が立て替えると、喪主の自腹になる可能性がある。
【保険金】
死亡保険金は受取人固有の財産であって、保険金を何に使ってもよい。しかし、葬儀に使ってほしいなど利用目的を家族全員で共有すれば余計なトラブルを避けられる。
【祭祀継承者、墓の費用負担】
祭祀継承者とは、先祖代々の墓を管理したり、年忌法要を主宰する者。
親が祭祀継承者の場合、そのお墓に入るのならだれが継ぐのか、入らないならその後の管理や供養はどうするのかを決める。
親が祭祀継承者ではない場合、お墓を新設するか、身内のお墓に入るかを決める。

お墓にかかる費用は、永代使用料、入檀家料、永代供養料、年間管理費、墓石代・工事費、法要費用。
【誰が相続人か】
相続人が誰なのかを確定させるには、被相続人の出生時から死亡時までの連続した戸籍謄本が必要。出生までさかのぼって戸籍謄本を取得する理由は、前妻との子、養子縁組、認知している子がいないか確認する必要があるため。
実際の相続時には3~6か月以内に取得したものが必要なため、あくまでもサンプルとしての取得になる。
【何が相続財産か】
親しか知らない預貯金、有価証券、保険証券などの保管場所や内容を、親の死後に家族が探すのは大変。親が元気なうちに財産目録を作成するのが良い。

遺言書の作成については割愛。

【不動産の名義は誰か】
相続で不動産を取得しても、登記上の名義を変更していないことがある。亡くなった人の名義のままだと不動産の売却等が出来ず、相続人が大変な思いをする事もある。親が元気なうちに、親本人の名義か確認しよう。
【今後のために聞いておきたい事項】
・葬儀(葬儀社選び、葬儀内容、葬儀スタイル)、お墓、法要
・葬儀に必要な情報(菩提寺の連絡先、訃報の連絡先、遺影写真)
・お墓に必要な情報(墓地管理者の連絡先、石材店の連絡先)
・通帳や印鑑などの保管先
・連帯保証人になっているかどうか
・エンディングノートの有無
・デジタル遺品の有無

誰が何を相続するかに加えて、葬儀とお墓をどうするか、が新しいテーマになった。

相続が開始したらやること

相続手続きの大まかな流れは以下の通り。

死亡
7日以内 死亡届の提出
10・14日以内 健康保険・年金関係の手続き
 この間に相続人の確定、財産調査、遺言書の有無確認(無い場合は遺産分割協議)←遺言書があると楽!
3か月以内 相続放棄・限定承認
4か月以内 準確定申告
 この間に相続税計算、小規模住宅地等の特例・配偶者税額軽減の特例の申告書作成
10か月以内 相続税の申告と納税

要は3か月以内に「なにを、だれと、どんな割合で分けるか」を決めて、10か月以内に実際に分けて税金を納める、ということだ。

『資産5000万円以下のふつうの家族が、なぜ相続でもめるのか?』で示された、遺言書の有無で手続きが大きく異なる、という視点があるとわかりやすい。遺言書が「なにを、だれと、どんな割合で分けるか」を予め決めてくれていれば、遺族の負担はぐっと減る。

【遺言書の有無による手続きの違い】
・公正証書遺言がある → 相続
・自筆証書遺言がある → 家庭裁判所で検認 → 相続
・遺言書がない or 自筆があっても無効・不備 → 遺産分割協議 → 遺産分割協議書作成 → 相続
【検認とは】
検認とは、相続人に対し遺言の存在・内容を知らせるとともに、遺言書の偽造・変造を防止するための手続き。自筆証書遺言を見つけても開封せず、家庭裁判所に検認を申し立てる。
遺言書の有効・無効を判断するものではなく、検認前に開封しても遺言書が無効になることはないが、罰則はある。

遺産に何があるか(借金があるのか)が分かっていないと、相続放棄などに進めない。

【相続放棄と限定承認】
どちらも3か月以内に家庭裁判所に申し立てる必要がある。
相続放棄とは、財産の一切を相続しないこと。はじめから相続人でない扱いになる。単独で申し立てられる。
限定承認とは、相続で得るプラスの財産の範囲内でマイナスの財産を返済すること。相続人全員が共同で申し立てる必要がある。

遺言書がない or 自筆があっても無効・不備 の場合は「だれと、どんな割合で分けるか」の話し合いになる。

【遺産分割協議と遺産分割協議書の作成】
遺産分割協議は相続人全員で行う必要があり、ひとりでも反対する人がいれば成り立たない。相続人に未成年者や認知症患者がいる場合は代理人を立てる必要があり、除外した遺産分割は無効になる。

遺言書があれば、「なにを、だれと、どんな割合で分けるか」が済んでいるので圧倒的に楽である。遺言書がないと、3か月以内に決めることになり相当大変である。

相続手続きと相続税の申告

ざっくり理解するなら、相続手続き=いろんなモノの所有者の変更、であって、モノが金銭なのか不動産なのかによって申請先、頼るべき専門家が変わってくる。なお、相続手続きはすべて相続人自身で行うこともできる。

【遺産分割協議書の作成(行政書士)】
遺言書がない場合、遺産分割協議を経て遺産分割協議書を作成する。書き方に決まりはなく相続人で作成できるが、行政書士に作成を依頼してもよい。
【不動産の名義変更(法務局、司法書士)】
土地や建物の所有権が移転した際に行う登記を「所有権移転登記」という。自分で申請書を作成し法務局で名義変更することもできる。複雑な場合は司法書士に依頼する。
【預貯や株式(各金融機関)】
各金融機関に直接問い合わせ。

所有者の変更後、資産を大きく増やした人は税金を納めなければならない。税なので申請先は当然国(税務署)、頼るべき専門家は税理士になる。

【準確定申告】
被相続人が死亡した年の所得税を税務署に申請し納税すること。つまり、亡くなった人の納税を代行すること。申告を求められるのは条件に該当する場合で、必ず行うわけではない。
【相続税の計算、申告、納税】
遺産の見た目の額と、税金を計算するためのベースの金額は違う。
 ①見た目の遺産総額(現預金、不動産などプラスの財産と、借金などマイナスの財産)
 ②ぱっと見遺産に入らないが、税務上遺産に含めるもの(死亡保険金、贈与など)
 ③税務上遺産に含めなくてよいもの(墓など非課税のもの、葬式費用)
①+②ー③で正味の遺産額が計算できるので、ここから基礎控除(3000万円+600万円×法定人の数)を差し引く(課税遺産総額が計算される)。
遺産課税総額をベースに税金総額が計算され、実際の相続人の相続額に応じて個人の税額が計算される。
小規模住宅地等の特例は①の時に、配偶者の特例は個人の税額計算時に考慮されると思われる。
膨大な添付書類を集めて申告書を作成し、現金で一括納付する。

相続が終わったら遺品整理

遺品とは、故人が残したものや故人にゆかりがある品物をいう。高価でないものは遺産分割に関係なく形見分けできる。本著では遺品整理のコツが書かれている。

感想

相続のことと、遺品整理の2テーマを一冊の本にしていて、シンプルで分かりやすい本だと思う。親が亡くなることにあたってまず相続を考え始めえると、その周辺事項で知らないことが次々湧いてくる。葬儀や遺品整理もその内の一つだけど、役所への手続きや年金のほうが関心が高いので、遺品整理のことを知りたいと思ったら読み直そうと思う。

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